2025.05.26

『席を譲らない先代経営者』の心理

こんにちは、北條です。

今回は「事業承継」をテーマにお話しします。

どの業界でも、承継問題でもめるケースは少なくありません。
実際、私自身も「なかなか席を譲らない先代経営者」の問題で、頭を悩ませたことがあります。

現代において事業承継がうまく進まないのには、さまざまな要因があります。
そしてその中でも特に、先代経営者と後継者、それぞれの立場の違いが、承継を難しくしている大きな要因だと感じています。

今回はその背景について、3つの視点から深掘りしてみたいと思います。


なぜ、現代の承継は難しいのか?

理由その1:ビジネスモデルや商品が既に毀損している

前回の記事では、ビジネスのライフサイクルについてお話ししました。

神田昌典『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』より

創業期に必要なのは、

  • 根性

  • カン

  • 勢い

この「3つの力」です。

一方、成熟期以降のフェーズで求められるのは、

  • 先見性

  • 知性

市場が成熟し、利益が伸び悩む中でビジネスを再構築する力が、後継者には求められるのです。
つまり、先代と後継者ではまったく違う力が求められるのです。

しかも現代では、商品のライフサイクルがどんどん短くなっています。

『拡張の世紀』ブレッド・キングより

新たな事業に参入しても、すぐに市場が成熟してしまう。
つまり後継者が舵を取る頃には、すでに既存事業の成長余地がなくなっており、新しい柱を作らなければ利益を維持できない状況が多いのです。

たとえば、前回取り上げたレンタルビデオ店の例。

先代がビデオ全盛期に立ち上げ、順調だったものの、今では配信サービスが主流に。
この状況では、当然ながら従来のやり方が通用しません。

新しいビジネスを立ち上げる必要がありますが、既存事業も同時に守る必要があるため、すべてを刷新するわけにはいきません。

結果として、社内での摩擦が起きやすく、後継者の身動きが取れないという問題が発生します。


理由その2:親世代の仕事がブラックボックス化している

次の理由は、「経営の可視化ができていないこと」です。

先代経営者が「譲りたい」と言いながら、実は情報を開示せず、引き継ぎが進まない。
これは意図的な場合もあります。

つまり、**「本音では譲りたくない」**という心理が、行動に現れてしまっているのです。

多くの昭和の創業者は、

  • 貧しさから抜け出したい

  • 兄弟との比較にコンプレックスを感じていた

  • 不自由な家庭環境から自由を得たかった

といった否定的な動機から起業しています。

そうした背景から、会社そのものが自己肯定感の源泉になっている。
つまり、「会社=自分の存在価値」になっているのです。

結果的に、

「自分がいないと会社が回らない」

「だから譲れない」

という心理構造が生まれます。

実際には「譲る気がある」と口で言いながらも、重要な情報や実権を渡さないケースは非常に多いです。
こうなると、後継者は精神的にも疲弊してしまいます。


理由その3:承継そのものが自己目的化している後継者がいる

これは少し厳しい視点ですが、重要な点です。

創業者世代は、強い想いや情熱を持って事業を始めています。
「美味しいラーメンを作りたい」「世の中にない価値を届けたい」——そういう原動力があったわけです。

一方、後継者はというと、

「人生で成し遂げたいことがない」
「何をやりたいか分からない」

という状態に陥っていることが多いです。

会社を継ぐという選択はしているものの、「情熱」や「パッション」が不足している。
そのために、課題を乗り越える意欲が湧かず、ビジネスも伸び悩む。

こうした「想いの差」も、承継がうまくいかない理由の一つになっているのです。

特に「やりたいことが見つからない」という声は、後継者の間でよく聞かれます。


まとめ:世代間のギャップと心理の壁を理解することから

このように、現代の事業承継が難しい理由には、

  1. ビジネスモデルの老朽化

  2. 経営のブラックボックス化

  3. 後継者のパッション不足

という3つの要因があります。

この構造を理解することで、承継の話し合いも、少し違った視点で進められるようになるかもしれません。


次回のブログでは、特に最後に触れた
「なぜ後継者はやりたいことが見つからないのか?」
について深掘りしていきます。

お楽しみに。

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