こんにちは、北條です。
現在、M&Aは中小企業の事業承継手段としてますます注目されています。
後継者不足が深刻化する中、M&Aで会社を譲渡・売却したいというご相談も非常に増えてきました。
一方で、それに伴いM&Aを悪用した詐欺的な手口も増加傾向にあるのをご存知でしょうか?
今回は実際に私の周囲で起きた、「買い手・売り手ともに倒産してしまった」M&A事例をご紹介し、
その中から中小企業が気をつけるべきリスクについてお話ししていきたいと思います。
今回ご紹介するのは、「売り手側」に問題があったことで、
買い手が大きな損害を受け、両社が共倒れになってしまったというケースです。
実は私自身も、この話に関わりかけていた過去があります。
数年前、ある銀行から茜丸に対してM&Aのオファーがありました。
内容は、和菓子製造小売業のA社を買収しないかというものでした。
調査を進めたところ、単品商品で構成されており、
うまく運用すれば儲かる可能性もある案件に見えました。
しかし、私はある一点が引っかかり、買収を見送りました。
その商品は、売上の大部分が“特定の原材料”に依存していました。
たとえるなら、おにぎりを作る企業が「米価格の変動」に強く影響を受けるようなものです。
しかも当時、その原材料価格は上昇傾向にありました。
「これは長期的に見て危険だ」と判断し、私はM&Aを見送ったのです。
しばらく経ち、別の食品メーカーの社長さんと話していたところ、
その方が私が見送ったA社を買収していたことが判明しました。
当時は順調に見えたのですが、後日耳にしたのは衝撃の事実でした。
なんとその買収によって数千万円の損害が発生し、倒産してしまったのです。
損失の主な要因は、**前経営者による「雇用調整助成金の不正受給」**でした。
これが買収後に発覚し、国から数千万円の返還命令を受けたのです。
つまり、法務的なチェックが不十分だったために、
予期せぬリスクを引き継いでしまったという典型的なM&Aの失敗例です。
大企業のM&Aでは、弁護士が介入し、**法務・財務・税務の徹底調査(デューデリジェンス)**が行われます。
しかし中小企業では、
コストを理由に十分な調査を省略
決算書だけで判断してしまう
形式的な引き継ぎだけで終わる
といった“甘いM&A”が一般化しており、リスクが非常に高くなっています。
このケースで最も恐ろしいのは、
前の経営者は会社を売却したことで、すべての責任から逃れた
という点です。
一方、買った側は不正のツケを全て背負い、
経営が立ち行かなくなり、倒産に追い込まれました。
これは他人事ではなく、誰にでも起こり得るリスクだということを忘れてはいけません。
この事例から得られる教訓として、M&A時には以下の点を必ず確認しましょう。
決算書だけでなく、雇用関連・助成金・法令遵守の状況を確認する
第三者による法務デューデリジェンスを依頼する
原材料の価格変動や外部依存度の高さを見極める
契約時に「表明保証条項」を盛り込み、リスク移転を防ぐ
今回の私は、「原材料依存リスク」に注目していたことで、
別の理由から偶然リスク回避できたに過ぎません。
しかし、もし価格面や商品力だけを見て買収していたら、
私も同じような結末になっていたかもしれません。
M&Aには多くのチャンスがある一方、
リスクも潜んでいることを忘れてはいけません。
次回は、さらに悪質な「買い手側が仕掛けたM&A詐欺の実例」をご紹介します。
M&Aをご検討中の方は、ぜひ引き続きご覧いただければと思います。
それでは、本日もありがとうございました。
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