2026.02.25

ズレから始まる設計──“不可能性の時代”をどう扱うか

こんにちは。
アカネサス代表の北條です。

本記事は、「読書によって考える力を鍛える」シリーズ第2回です。

全3回を通じて、抽象と具体を往復しながら、
ビジネスや制度設計、組織づくりにおいて本質的に必要な

“読み解く力”

について考えていきます。

  • 第1回:経営本では身につかない──構造と変化の起点を読む力

  • 第2回:ズレから始まる設計──“不可能性の時代”をどう扱うか(本記事)

  • 第3回:虚構の時代の果て──それでも語る理由


読むに値する本は少ない

正直に申し上げて、一般的な経営書やビジネス書の多くには懐疑的です。

過去事例をもとにした曖昧な帰納、
現場で再現できない抽象論の繰り返し。

本質的な議論に至っている書籍は、ほとんど見かけません。

むしろ、

  • Excelの操作方法

  • プレゼン資料の構成法

といった単機能の実務書のほうが、よほど役に立ちます。

実務において意味を持つのは、
**「再現性のある知識」**だけだと考えています。

だからこそ私は、
社会の深層にある構造そのものを対象化する知性にこそ、
学ぶ価値があると考えています。


なぜプロジェクトは止まるのか

どれだけ段取りを詰めても、現場はズレます。

制度を活用し、設備投資の設計まで整え、稟議も通った。
そのはずが、最終的にプロジェクトが宙に浮くことがあります。

理由はさまざまですが、本質的には

  • 人の迷い

  • 文化的な引っかかり

  • 責任構造の不透明さ

といった、言語化されていない力学が背景にあります。

制度・資金・計画の三点セットが揃っても、
それが実行されるとは限らない。

現場で起きるのは、常に“ズレ”です。

そして私は、このズレこそが
設計や意思決定の入口になると考えています。


動けなくなる構造──『不可能性の時代』

この「ズレ」をどう理解するか。

その手がかりとなるのが、
社会学者・大澤真幸先生の

📘 『不可能性の時代』(岩波新書)

です。

「かつての人は、選択肢がなかったから動けなかった。
現代の人は、選択肢が多すぎて動けない。」

この逆説は、制度設計や事業推進、組織運営に深く通じています。

補助金や設備投資のように、
「やることは整っている」ように見える現場でも、
最終判断ができないケースは多い。

“選べる状態”が生み出すのは、自由というより
動けなさなのです。

大澤先生はこう書いています。

「可能性の拡大は、選択の困難を高め、
結果として行動の不可能性を招く。」

やれることが増えた社会では、
決めること自体が困難になる。

これは抽象論ではなく、
現場で日々起きている具体的な現象です。


私とこの本

私は大学院時代、大澤先生の講義を受けた“不肖の弟子”の一人です。

当時から、「資本」や「組織運営」といった現実的テーマを、
〈不可能性〉という枠組みで読み直したいと考えていました。

ビジネスの世界に飛び込み、
制度や利害と格闘する日々のなかで、

再び抽象の言葉を手に取るようになったのは、

「目の前の問題の奥に、構造的な読みが必要だ」

と感じたからです。

いつか「制度の設計と倫理」について
大澤先生と正面から議論したい。

その思いが、私を言葉の世界に引き戻し続けています。


ズレを読むということ

先を読むことだけが設計ではありません。

むしろ、“読み通りにいかない”ことを前提にしたとき、
初めて設計や判断は意味を持ちます。

  • どこがズレるのか

  • なぜズレるのか

  • そのズレは何に根ざしているのか

その履歴を記録し、パターン化し、
次に活かせる形に落とし込む。

それが応用可能な判断力につながります。

ズレの履歴を言語化できるようになったとき、
人は状況を読む力を得るのです。


今週の問い

あなたが最後に感じた「ズレ」はどこにありましたか?

それは、どんな関係や構造とつながっていましたか?

その履歴を、どのように記録し、
今後にどう活かしていますか?

ズレを“誤差”として処理するのではなく、
“素材”として扱えるようになったとき、

設計や判断の質は一段階変わります。


次回予告:語りが動かす設計

一度限りの現場で、どう判断し、どう動かすのか。

それを支えるのは、数字や制度だけではありません。
“語り”や“物語”の力が、現実を動かすことがあります。

次回は、

「虚構=再現できない状況を動かす技術」

としての言葉の力について考えます。

語ること、語られることが、
どのように構造を動かすのか──

ぜひ続けてお読みください。

── 北條竜太郎

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