2025.11.28

倒産を否応なく受け入れる瞬間

はじめに

こんにちは。
アカネサス代表の北條竜太郎です。

前回の記事では、東京でオリックスに勤務していた私が、**借金22億円を抱えた実家の製餡メーカー「茜丸」**に戻る決断をしたところまでお話ししました。

今回は、その後に経験した「倒産と再起」の実体験をお話しします。


オリックスを辞め、家業・茜丸へ

2006年の秋。
私はオリックスを退職し、実家の「茜丸」にジョインしました。

正直、迷いはありました。
そんな私の背中を押したのは、ある上司の言葉でした。

「仕事はゲームだと思え。
深く考えても、ダメなときはダメだ。
戻る場所はある。」

この言葉を胸に、私は**“倒産しそうな会社を潰す覚悟”で現場に入る**決意をしました。
もちろん思い入れはありました。
けれど同時に、これは「経営構造を実地で学べるチャンス」でもあると感じていました。


「潰す覚悟」で現場に入る

実家に戻る前、私は外資系コンサルティング会社に勤めていました。
経営構造に関心があったのですが、当時は“現実との距離”を感じていました。

だからこそ、現場のど真ん中で経営構造を学べる機会を求めたのです。

ただ、最初から**「この会社はいずれ潰れる」**という直感もありました。
もっと正確に言えば、

「潰すという判断を、いずれ自ら下さなければならない」
という感覚です。


崩れゆく資金繰り

入社してまず目の当たりにしたのは、資金繰りの崩壊でした。

売上の半分が毎月の返済に消えていく。
借り換えを続けなければ回らない。
それでも返済スピードは加速する──。

当時、茜丸は一等地の担保を持っていたため、メインバンクはリスケ(返済猶予)に一切応じませんでした。
「潰れるなら勝手に潰れろ」という態度です。

入社前からすでに、**新規借入で返済を回す“自転車操業”**の状態。
私は銀行から届く返済通知ハガキを1枚ずつ集め、金額を足して資金繰り表を作成。
その結果、月々の返済額が売上に近い水準であることが判明しました。


民事再生法の適用──“構想の再起動”

2007年3月20日。
私は再生担当役員として、民事再生法の適用を申し立てました。

これは「敗北」ではありません。
むしろ、**“構想の再起動”**でした。

民事再生とは、裁判所の監督下で債務を再構成し、事業再建を目指す制度です。
しかし現実は理屈よりもはるかに厳しいものでした。

  • 金融機関、仕入先、従業員、家族…あらゆる利害が交錯

  • 信頼を取り戻すための戦略と説明責任

  • 法務・財務の専門知識が必須

そして世間の目には「倒産」と映ります。
実際、民事再生を自己資本だけでやり切る企業はほとんど存在しません。

銀行取引の再開までには、3年を要しました。
多くの企業がスポンサー譲渡や清算で終わる中、私たちは「構想なき延命」ではなく、

「経営構想の再構成」
を選んだのです。

これが、茜丸再建の原点になりました。


構造リライトへ──いくつもの「線引き」

この決断の中で、私は多くの厳しい線引きを迫られました。

  • 約600坪の実家を売却し、資金繰りに充当

  • 給与水準が不均衡に高い社員との別れ

  • 「守る人」「諦める人」を自ら決定

当然、反発もありました。
誰が残り、誰が去るのか。
その判断は理屈ではなく感情が先に立つものです。
私はその矢面に立ちました。


販売構造の転換

経営構造のリライトは、販売面にも及びました。

  • 【卸中心】から【直販中心】へ

  • 価格主導権を取り戻す営業再設計

さらに、銀行交渉の過程で反社会的勢力の関与を断つ必要もありました。
「構想を描く以前に、まともな土台を整える」──
この現実の厳しさを、私は身をもって知ることになりました。


倒産がもたらす現実──「関係性の崩壊」

民事再生の報道が出ると、テレビ取材が入り、新聞には「倒産」の見出し。
その瞬間、社会は静かに距離を取ります。

電話は鳴らなくなり、連絡をくれる友人もほとんどいませんでした。
気を遣っての沈黙だとわかっていても、その静けさが何より堪えました。

失うのは、金や土地だけではない。
「人との関係性の崩壊」こそが、倒産の本当の痛みでした。


再生とは「構造を描き直すこと」

それでも私は、この経験を“失敗”とは捉えていません。

民事再生とは、壊すための選択ではなく、

もう一度「利益が出る仕組み」を描き直すための一時停止。

これこそが、再生の本質だと思います。


アカネサスでの再構築支援

現在アカネサスに寄せられるご相談の多くも、

  • 「補助金で立て直したい」

  • 「黒字だが構造が持たない」

といった、“構想の原点”に立ち返るテーマです。

たとえばある食品メーカーでは、

  • 営業利益が赤字から5.2%に回復

  • 設備更新と販路整理を同時に実施

  • 後継者への引き継ぎを構想段階から整理

補助金を“使うこと”が目的ではなく、企業構造を1から動かす再建の好例です。


まとめ:「再生=構造のリライト」

私たちの定義では、

再生とは、もう一度利益が出る仕組みの地図を描き直すこと。

制度対応ではなく、構造そのものを“リライト”すること。
それが、真の再生です。


次回予告

次回は、
「思想から事業へ──なぜ私は“構想”という言葉に惹かれたのか」
というテーマで、構造を見直す考え方の原点についてお話しします。

それではまた。

アカネサス株式会社
代表取締役
北條竜太郎

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