こんにちは。
アカネサス代表の北條です。
前回、私は
「もし自分がヤオハンだったら、③を選ぶ」と書きました。
すべてを賭けて、
静岡を売り、中国人になる道です。
しかし本当は、
もっと良い道があったはずです。
理念を守りながら、会社を潰さない仕組み
です。
今回は、理念を「信仰」ではなく「運用」として扱い、
現実の中で成果を上げ続ける企業を見ていきます。
ヤオハンが理念を掲げながら崩壊した一方で、
同じように理念を掲げながら成長を続けた企業があります。
ただ、ここでパタゴニアやスターバックスの話をするつもりはありません。
なぜなら、それらは食品製造業の経営者にとって少し遠い存在だからです。
食品業界にも、
理念を運用して生き残った企業があります。
これらの企業は、理念をスローガンではなく、
「組織が行動するためのルール」
として運用してきました。
理念を祈りにせず、
日々の判断を動かす設計図にした。
この違いが、成長と崩壊の分かれ目です。
キユーピーの理念は、
「愛は食卓にある」
です。
一見すると、かなり抽象的に見えます。
しかし実際には、この理念は品質管理の数値基準に翻訳されています。
たとえば、
つまり、「愛」という言葉が、
「賞味期限の2倍」や「24時間以内」
という数値に置き換えられているのです。
これが理念の運用です。
もしヤオハンが
「人間尊重」を数値化していたらどうだったでしょうか。
たとえば、
といった基準に翻訳していれば、
崩壊は防げたかもしれません。
理念を信じるだけでは、判断は動きません。
理念を数字に変えたとき、初めて判断が動き始めます。
味の素の理念は、
「食と健康」
です。
これもまた、かなり抽象的です。
しかし2000年代、味の素はこの理念に基づいて
不採算事業から大量撤退しました。
その背景には、
「食と健康に貢献しない事業はやらない」
という思想がありました。
この言葉が、
撤退の判断基準になったのです。
ヤオハンに足りなかったのも、まさにこれでした。
「共生」という理念が、撤退を許さなかった。
しかし味の素は、理念を
「何をやらないかを決める基準」
としても使ったのです。
理念は、進む方向を示すだけではありません。
退く基準にもなります。
もし和田一夫が、
「人間尊重とは、社員の雇用を守るために会社を残すことだ」
と定義していたなら、
不採算店舗からの撤退を理念で正当化できたはずです。
カゴメの理念は、
「自然を、おいしく、楽しく」
です。
これも抽象的に聞こえます。
しかし実際には、この理念は製品開発のKPIに埋め込まれています。
たとえば、
「自然」という言葉が「野菜350g」という数字になり、
「おいしく」が「リコピン」という成分になる。
理念が製品仕様に変わったとき、理念は現実を動かし始めます。
ヤオハンが「共生」を
店舗設計やサプライチェーンに埋め込んでいたらどうだったか。
たとえば、
といった数値目標にしていたなら、
理念は単なる祈りではなく、運営の指針になっていたはずです。
去年、ある案件を断りました。
補助金2億円、総投資額5億円の新工場案件です。
顧客は熱心で、銀行も前向き。
私たちが支援すれば、採択率は高かったと思います。
しかし私は、需要予測を見て断りました。
理由は単純です。
稼働率の想定が甘かった。
初年度70%、3年後80%という計画でしたが、
既存工場の稼働率が60%なのに、新工場が70%になるはずがない。
私はこう伝えました。
「補助金が通っても、3年後にこの工場は御社の重荷になります」
顧客は怒りました。
短期的には、成功報酬2,000万円の売上を失いました。
しかし、もしあの案件を引き受けていたら、
3年後、その会社は低稼働の工場に苦しんだはずです。
アカネサスには、理念を運用するための基準があります。
理念を数字に翻訳するとは、こういうことです。
短期の売上を捨てる痛みを受け入れること
でもあります。
理念を守るには、
目の前の「金」を捨てる覚悟が要るのです。
その顧客は、結局ほかのコンサルを使って補助金を取りました。
今頃、稼働率60%の工場で苦しんでいるかもしれません。
それでも私は、あの判断を後悔していません。
理念が、あの決断を支えてくれたからです。
前回、私は「③を選ぶ」と書きました。
すべてを賭けて、華南に跳ねる道です。
なぜ③を選ぶのか。
それは、私がヤオハンを尊敬しているからです。
90年代、イオンもヨーカドーも国内に留まっていた時代に、
ヤオハンは香港に上場し、和田一夫自らが香港に移住し、中国本土に世界最大の百貨店を建てた。
誰もやっていないことを、やった。
これは尊敬に値します。
そして、先駆者だからこそ成功してほしかった。
先駆者が失敗すると、後に続く者が現れなくなる。
先駆者が成功すれば、新しい道が開かれる。
だから私は、ヤオハンの失敗を惜しむのです。
しかし同時に、こうも思います。
本当は、そこまで賭けなくてもよかったはずだと。
もし和田一夫が、1995年の時点で上海Nextageを止めていたら。
あの開店初日に107万人を集めた巨大店舗を、
「これは共生ではない。過大投資だ」
と判断して縮小していたら。
社内は猛反発したでしょう。
それでも止める。
理念を守るために、理念を裏切る。
これが理念を運用するということです。
正直に言えば、私にもそれができたか自信はありません。
おそらく私も、「何も選ばない」という第四の道を選んでいた可能性が高い。
なぜなら、決断には痛みが伴うからです。
撤退には、誰かの夢を潰す痛みが伴う。
キユーピーも、味の素も、カゴメも、
誰かがその痛みを引き受けたから、理念が動いたのです。
理念を運用するとは、数字を作ることではありません。
痛みを引き受ける覚悟を、仕組みにすること
です。
理念を信じるだけでは、現実は何も変わりません。
理念を動かす仕組みがなければ、
どんなに美しい理念も会社を救えません。
そして彼らは、痛みを引き受けました。
一方でヤオハンは、理念を信じました。
しかし理念を運用する仕組みを持たなかった。
そして何より、
痛みを引き受けられなかった。
撤退という痛みを。
夢を潰すという痛みを。
だから、理念が会社を救えなかったのです。
理念を守るために理念を動かす。
それが、理念経営を成功させる唯一の道です。
しかしそれは、キレイ事では済みません。
それでも動かす。
それが、理念を運用するということです。
第5回は
「理念を制御する設計図──理念は固定値ではなく変数」
をテーマにお届けします。
理念をどう仕組み化すれば、
経営判断の中で柔軟に機能し続けるのか。
食品製造業でも使える、
具体的な理念運用のテンプレートを提示します。
── 北條竜太郎
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