2026.08.26

【経営は総合力1】製品は完璧だった──それでも倒れた醤油メーカーの話【全3回】

こんにちは。
アカネサス代表の北條です。

「製品は10点満点。でも、会社は倒産した」

そんな信じがたい実話があります。

今回から3回にわたり、

「食品メーカーの経営は、最弱点で決まる」

というテーマでお届けします。


1.80年続いた“完璧な味”が消えた

2年前、ある醤油メーカーが倒産しました。

創業80年。
全国品評会で金賞。
地域では「味の誇り」と呼ばれていた会社です。

製品力だけを見れば、
間違いなく10点満点でした。

しかし、その会社は倒産しました。


2.北陸の港町にあった老舗醤油メーカー

その会社は、北陸の港町にありました。

三代目社長は毎朝6時に工場へ入り、
木桶を撫でながらこう言っていたそうです。

  • 「この桶は祖父の代から使っている」
  • 「この味を守ることが、俺の使命だ」

木桶熟成、無添加、地元大豆100%。
こだわり抜いた製法でした。

メディアにもたびたび取り上げられ、
地域の誇りとして知られていました。

製品力:10点満点。

ここまでは、誰もが羨むような会社に見えます。


3.しかし、数字はまったく別のことを語っていた

数字を見ると、別の姿が浮かび上がります。

  • 年商:2億円(20年間ほぼ横ばい)
  • 固定費:1.8億円(人件費・償却・地代)
  • 営業利益:+2,000万円

主力取引先は、地元スーパー3社。
売上の65%をそこに依存していました。

さらに、

  • 営業担当:社長のみ
  • 新規営業:ゼロ

という状態です。

実は、崩壊の兆候ははっきり出ていました。

  • 新規商談件数:0件/月(目標5件)
  • 上位3社依存度:65%(理想40%以下)
  • 値上げ実施率:0%(原価上昇6%)

しかし社長は、こうした数字を直視しませんでした。

月次会議で見るのは、売上と利益だけ。

「利益が出てる。大丈夫だ」

そう考えていたのです。

見たくない数字。
それが、この会社の最弱点でした。


4.崩壊は、ある日突然始まった

2021年春。
主力スーパーの1社が閉店しました。

売上の20%が、一気に吹き飛びました。

  • 年商:2億円 → 1.6億円
  • 営業利益:+2,000万円 → ▲2,000万円

突然の赤字転落です。

営業担当者を採用する提案が出ました。
しかし社長は言いました。

  • 「営業なんていらない」
  • 「この味があれば、お客様は離れない」

値上げの提案もありました。
しかし社長は、こう返しました。

  • 「お客様に迷惑をかけられない」

さらに、安全在庫を確保するために在庫を増やしました。
結果として、キャッシュ流出は加速。

翌年も赤字が続き、銀行は追加融資を拒否。
その翌月には支払い遅延が起き、資金ショート。

倒産まで、わずか12か月でした。


5.なぜ営業力が“2点”だったのか

社長は、営業を軽視していました。

過去5年間の投資を見れば、それは明らかです。

  • 設備投資:8,000万円
  • 新商品開発:2,000万円
  • 営業強化:0円

信念は一貫していました。

「いいものを作れば売れる」

しかし現実には、営業の土台がまったくありませんでした。

  • SNS:なし
  • ECサイト:なし
  • 新規顧客リスト:なし
  • 営業戦略:なし

営業力:2点。

製品がどれほど優れていても、
それを届ける仕組みがなければ売上にはなりません。


6.経営は“足し算”ではなく“掛け算”で決まる

経営は足し算ではなく、掛け算です。

製品力 × 営業力 = 売上

この会社でいえば、

10 × 2 = 20

です。

どちらかが0なら、結果も0になる。
どちらかが弱ければ、全体が弱くなる。

この会社は、「味」という武器だけで戦場に出ました。
しかし、営業という盾がなかった。

強みを磨くだけでは、生き残れません。


7.もし営業力を補っていたらどうなっていたか

もし営業経験者を1人採用していたらどうだったでしょうか。

  • 初期投資:500万円
    (年収400万円 + 採用コスト100万円)
  • 新規顧客:年間10社開拓
  • 売上増:5,000万円

投資回収期間は、約1年です。

しかし社長は、この投資を行いませんでした。

  • 「うちは味で勝負する会社だ」
  • 「営業にカネはかけない」

さらに言えば、
小規模事業者持続化補助金を使う道もありました。

たとえば、

  • ECサイト構築:100万円
  • 商談用パンフレット・サンプル:50万円
  • 食品展示会出展:50万円

合計200万円の投資に対して、

  • 補助金(2/3):132万円
  • 自己負担:68万円

自己負担68万円で、

  • ECサイトから全国注文を獲得
  • 展示会で新規取引先10社獲得
  • 売上5,000万円増

という可能性があったわけです。

私は社長に何度か、この補助金を提案しました。
しかし返ってきたのは、こんな言葉でした。

  • 「補助金なんて面倒だ」
  • 「書類を書く時間があったら、醤油を仕込む」

結果は、倒産です。

自己負担68万円を惜しんで、創業80年の会社を失った。

これは、あまりにも大きな代償でした。


8.私が何度も見てきた失敗パターン

アカネサスで補助金申請を支援する中で、
私は同じパターンを何度も見てきました。

パターンA:製品は完璧、営業が弱い

→ 売上が伸びず、固定費を払えず倒産

パターンB:営業は完璧、品質管理が弱い

→ 食中毒で一瞬で崩壊

パターンC:すべて中途半端

→ どこかが0になった瞬間、倒れる

強みで勝てると思っている経営者は、自らの最弱点から倒れます。


9.教訓──経営は総合戦である

経営は、総合戦です。

製品がどれほど優れていても、
営業・財務・人材のどこかが弱ければ、
その“最弱点”から崩れます。

  • 製品10 × 営業2 = 20
  • 営業10 × 品質2 = 20

どちらでも倒れるのです。

強みを伸ばすことではなく、“弱みを潰すこと”が生き残りの条件です。


10.次回予告

次回は、もっと衝撃的な話です。

年商15億円。
全国1,000店舗に展開。
営業力は10点満点。

それでも、1か月で崩壊しました。

理由は、食中毒。
品質管理が2点だったからです。

どれだけ営業が強くても、
最弱点が0になった瞬間、全体も0になります。

次回は、

「営業は最強だった──それでも倒れた漬物メーカーの話」

をお届けします。


── 北條竜太郎

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