2026.08.24

⑥理念経営は、存在しない【全6回】

こんにちは。
アカネサス代表の北條です。

6回にわたって、
ヤオハンの理念経営を追いかけてきました。

そして最終回の今、
私はこう結論づけます。

理念経営は、存在しない。


1.理念経営も、利益第一も、どちらも嘘だ

このシリーズを書き終えて、
あらためて気づいたことがあります。

そもそも、
理念経営など存在しないのではないか。

第4回では、
私は「理念を運用する仕組み」を語りました。

第5回では、
理念KPIや撤退基準について説明しました。

しかし本当は、
そんな仕組みがあったとしても、
経営者は矛盾の中で生きています。

  • 利益のために理念を捨てる
  • 理念のために利益を捨てる

どちらも正しくありません。

利益も理念も、
どちらも必要です。

利益第一であってはならない。
しかし、利益がなければ理念は守れません。

理念第一であってもならない。
しかし、理念がなければ苦労する価値がありません。

ビジョナリー・カンパニーでさえ、
本当は“理念を守り続けた企業”ではないのかもしれません。

みんな、矛盾の中で生きている。
理念を守るために、
理念を部分的に裏切っているのです。


2.ヤオハンが教えてくれたこと

ヤオハンは、
理念を信じすぎて倒れました。

「人間尊重」「共生」――
この理念が、結果として撤退を遅らせ、
会社を沈めてしまったのです。

しかし、もしヤオハンが理念を捨てていたらどうだったか。

単なる利益追求の小売業になっていたら、
それにも意味はなかったはずです。
苦労する価値がない。

和田一夫は、
香港に移住し、中国という巨大な可能性に賭け、
そしてすべてを失いました。

それは「失敗」だったかもしれません。
けれど、理念を捨てて静岡で小さく生き延びることに、
どれほどの意味があったでしょうか。

野茂やイチローが、
日本で無難にプレーしていたら、
彼らは英雄になれたでしょうか。

失敗するリスクを取ったから、
道が開けたのです。

ヤオハンは倒れました。
しかし、誰も挑戦していないことに挑みました。

それは、尊敬に値します。


3.私が「すべてを賭ける道」を選ぶ理由

第3回で私は、
「もし自分がヤオハンだったら、③を選ぶ」と書きました。

静岡を捨て、
すべてを賭けて、
華南に跳ねる道です。

なぜ私は③を選ぶのか。

それは、
理念経営が存在しないからです。

理念を完全に守る仕組みなどない。
理念と利益のバランスをきれいに取ることもできない。

だから、賭けるしかない。

すべてを賭けて、
理念と利益の両方を追う。

失敗するかもしれない。
すべてを失うかもしれない。
それでも賭ける。

なぜなら、
賭けなければ理念も利益も手に入らないからです。

前回、私は
「稼働率65%の案件を、基準を破って受けた」と書きました。

これが正しかったのか、
今も分かりません。

3年後、あの会社が苦しんでいたら、
私は間違っていたことになります。

しかし、
基準を守るだけでは理念を守ったことにはならない。

経営者は、
矛盾の中で生きていくしかないのです。


4.解雇もリストラも、許される

理念を守るために、人を解雇する。
これは明らかに矛盾しています。

  • 「人間尊重」のためにリストラする
  • 「共生」のために撤退を選ぶ

この矛盾が許されなければ、
経営者は何もできません。

もし会社が潰れてしまえば、
全員が職を失います。

10人を解雇して、
残りの100人を守る。
これが経営者の仕事です。

理念のために、理念を裏切る。
この覚悟がなければ、会社は存続できません。

かつてのヤオハンは、
この矛盾を生きることができませんでした。

  • 「人間尊重」があるから、リストラできない
  • 「共生」があるから、撤退できない

理念が、理念を殺したのです。

もし和田一夫が、

「人間尊重とは、会社を残すことだ。だから10人を解雇する」

と言い切っていたら――

理念は、会社を救ったかもしれません。


5.私は、何も選ばない道を選んでしまうかもしれない

もし明日、こんな提案が来たらどうでしょうか。

「アカネサスのシステムを、全国の補助金コンサルに展開しませんか?」
「初期投資5億円。3年で100社に導入できれば、年商50億円です」
「ただし、失敗すれば会社は潰れます」

これが、③「すべてを賭ける道」です。

その時、私は何と言うでしょうか。

  • 今は時期じゃない
  • もう少しシステムを磨いてから
  • メンバーが6人しかいないから、まだ早い
  • 来年考えましょう

こうして1年が過ぎる。
また1年が過ぎる。
気づけばチャンスは消えている。

これが、④「何も選ばない道」です。

正直に言えば、
私は④を選んでしまうかもしれません。

第3回で「私は③を選ぶ」と書きました。
しかし、本当に選べるのか。

自信はありません。

なぜなら、私は臆病だからです。
メンバー6人を路頭に迷わせる勇気がない。

だから私は、
ヤオハンを批判できません。

私も彼らと同じ人間だからです。


6.ヤオハンへの、最後のメッセージ

和田一夫さん、
私はあなたを尊敬しています。

90年代、誰も海を渡らなかった時代に、
あなたは香港に上場し、
自ら移住し、
中国に賭けました。

私は、あなたに先駆者として成功してほしかった。

野茂が大リーグで活躍し、
イチローが記録を打ち立てたように。

あなたにも、中国で成功してほしかったのです。

結果として、道は半ばで途絶えました。
しかし、その挑戦を私は忘れません。

もしあなたが成功していたら、
今頃、食品業界の経営者も
もっと海外に挑戦していたかもしれません。

先駆者が失敗すると、
後に続く者が現れなくなる。

だからこそ私は、
このシリーズを書きました。

あなたの失敗を、
無駄にしたくなかったのです。


7.読者への問いかけ

あなたも、
いつか同じ選択に直面します。

1.安全だが小さい道を選ぶか

会社は残る。
しかし、大きく跳ねることはない。

3.すべてを賭ける道を選ぶか

成功すれば大きく伸びる。
失敗すればすべてを失う。

4.何も選ばない道を選ぶか

「今は時期じゃない」と言い訳を重ね、
気づいたときには手遅れになる。

経営に正解はありません。
しかし、一つだけ言えることがあります。

④だけは、選んではいけない。

1でも3でもいい。
しかし、何も選ばないことだけは、確実に間違っています。

ヤオハンは、④を選びました。
だから破綻したのです。

あなたは、どれを選びますか。


8.結論──矛盾を生きることが、経営だ

理念経営は、存在しません。
利益第一も、存在しません。

経営者は、
矛盾の中で生きています。

  • 理念のために利益を追う
  • 利益のために理念を曲げる
  • 理念のために人を切る
  • 人を守るために理念を裏切る

この矛盾を生きる覚悟が、
経営者には必要です。

仕組みだけでは解決できません。
理念KPIがあっても、
基準を破る瞬間は必ず来ます。

その時、
あなたは決断しなければならない。

理念を守るのか。
それとも、理念を裏切るのか。

どちらを選んでも、
後悔するかもしれません。

それでも、決断しなければならない。
それが経営だからです。

私は「③を選ぶ」と書きました。
しかし、その瞬間に本当に③を選べるか、自信はありません。

ただ一つ、確信していることがあります。

④だけは選ばない。

何も選ばないことだけが、
唯一の間違いだからです。


終わりに

6回にわたって、
ヤオハンの理念経営を追ってきました。

結論は、シンプルです。

理念経営は存在しない。
しかし、理念なしでは生きられない。

この矛盾を生きること。
それこそが、経営の本質です。

理念を信じるだけでは足りません。
理念を運転する仕組みも必要です。

ただし、それでも矛盾は消えません。

最後に必要なのは、
矛盾を生きる覚悟です。

長い連載にお付き合いいただき、
本当にありがとうございました。


── 北條竜太郎

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