こんにちは。
アカネサス代表の北條です。
6回にわたって、
ヤオハンの理念経営を追いかけてきました。
そして最終回の今、
私はこう結論づけます。
理念経営は、存在しない。
このシリーズを書き終えて、
あらためて気づいたことがあります。
そもそも、
理念経営など存在しないのではないか。
第4回では、
私は「理念を運用する仕組み」を語りました。
第5回では、
理念KPIや撤退基準について説明しました。
しかし本当は、
そんな仕組みがあったとしても、
経営者は矛盾の中で生きています。
どちらも正しくありません。
利益も理念も、
どちらも必要です。
利益第一であってはならない。
しかし、利益がなければ理念は守れません。
理念第一であってもならない。
しかし、理念がなければ苦労する価値がありません。
ビジョナリー・カンパニーでさえ、
本当は“理念を守り続けた企業”ではないのかもしれません。
みんな、矛盾の中で生きている。
理念を守るために、
理念を部分的に裏切っているのです。
ヤオハンは、
理念を信じすぎて倒れました。
「人間尊重」「共生」――
この理念が、結果として撤退を遅らせ、
会社を沈めてしまったのです。
しかし、もしヤオハンが理念を捨てていたらどうだったか。
単なる利益追求の小売業になっていたら、
それにも意味はなかったはずです。
苦労する価値がない。
和田一夫は、
香港に移住し、中国という巨大な可能性に賭け、
そしてすべてを失いました。
それは「失敗」だったかもしれません。
けれど、理念を捨てて静岡で小さく生き延びることに、
どれほどの意味があったでしょうか。
野茂やイチローが、
日本で無難にプレーしていたら、
彼らは英雄になれたでしょうか。
失敗するリスクを取ったから、
道が開けたのです。
ヤオハンは倒れました。
しかし、誰も挑戦していないことに挑みました。
それは、尊敬に値します。
第3回で私は、
「もし自分がヤオハンだったら、③を選ぶ」と書きました。
静岡を捨て、
すべてを賭けて、
華南に跳ねる道です。
なぜ私は③を選ぶのか。
それは、
理念経営が存在しないからです。
理念を完全に守る仕組みなどない。
理念と利益のバランスをきれいに取ることもできない。
だから、賭けるしかない。
すべてを賭けて、
理念と利益の両方を追う。
失敗するかもしれない。
すべてを失うかもしれない。
それでも賭ける。
なぜなら、
賭けなければ理念も利益も手に入らないからです。
前回、私は
「稼働率65%の案件を、基準を破って受けた」と書きました。
これが正しかったのか、
今も分かりません。
3年後、あの会社が苦しんでいたら、
私は間違っていたことになります。
しかし、
基準を守るだけでは理念を守ったことにはならない。
経営者は、
矛盾の中で生きていくしかないのです。
理念を守るために、人を解雇する。
これは明らかに矛盾しています。
この矛盾が許されなければ、
経営者は何もできません。
もし会社が潰れてしまえば、
全員が職を失います。
10人を解雇して、
残りの100人を守る。
これが経営者の仕事です。
理念のために、理念を裏切る。
この覚悟がなければ、会社は存続できません。
かつてのヤオハンは、
この矛盾を生きることができませんでした。
理念が、理念を殺したのです。
もし和田一夫が、
「人間尊重とは、会社を残すことだ。だから10人を解雇する」
と言い切っていたら――
理念は、会社を救ったかもしれません。
もし明日、こんな提案が来たらどうでしょうか。
「アカネサスのシステムを、全国の補助金コンサルに展開しませんか?」
「初期投資5億円。3年で100社に導入できれば、年商50億円です」
「ただし、失敗すれば会社は潰れます」
これが、③「すべてを賭ける道」です。
その時、私は何と言うでしょうか。
こうして1年が過ぎる。
また1年が過ぎる。
気づけばチャンスは消えている。
これが、④「何も選ばない道」です。
正直に言えば、
私は④を選んでしまうかもしれません。
第3回で「私は③を選ぶ」と書きました。
しかし、本当に選べるのか。
自信はありません。
なぜなら、私は臆病だからです。
メンバー6人を路頭に迷わせる勇気がない。
だから私は、
ヤオハンを批判できません。
私も彼らと同じ人間だからです。
和田一夫さん、
私はあなたを尊敬しています。
90年代、誰も海を渡らなかった時代に、
あなたは香港に上場し、
自ら移住し、
中国に賭けました。
私は、あなたに先駆者として成功してほしかった。
野茂が大リーグで活躍し、
イチローが記録を打ち立てたように。
あなたにも、中国で成功してほしかったのです。
結果として、道は半ばで途絶えました。
しかし、その挑戦を私は忘れません。
もしあなたが成功していたら、
今頃、食品業界の経営者も
もっと海外に挑戦していたかもしれません。
先駆者が失敗すると、
後に続く者が現れなくなる。
だからこそ私は、
このシリーズを書きました。
あなたの失敗を、
無駄にしたくなかったのです。
あなたも、
いつか同じ選択に直面します。
会社は残る。
しかし、大きく跳ねることはない。
成功すれば大きく伸びる。
失敗すればすべてを失う。
「今は時期じゃない」と言い訳を重ね、
気づいたときには手遅れになる。
経営に正解はありません。
しかし、一つだけ言えることがあります。
④だけは、選んではいけない。
1でも3でもいい。
しかし、何も選ばないことだけは、確実に間違っています。
ヤオハンは、④を選びました。
だから破綻したのです。
あなたは、どれを選びますか。
理念経営は、存在しません。
利益第一も、存在しません。
経営者は、
矛盾の中で生きています。
この矛盾を生きる覚悟が、
経営者には必要です。
仕組みだけでは解決できません。
理念KPIがあっても、
基準を破る瞬間は必ず来ます。
その時、
あなたは決断しなければならない。
理念を守るのか。
それとも、理念を裏切るのか。
どちらを選んでも、
後悔するかもしれません。
それでも、決断しなければならない。
それが経営だからです。
私は「③を選ぶ」と書きました。
しかし、その瞬間に本当に③を選べるか、自信はありません。
ただ一つ、確信していることがあります。
④だけは選ばない。
何も選ばないことだけが、
唯一の間違いだからです。
6回にわたって、
ヤオハンの理念経営を追ってきました。
結論は、シンプルです。
理念経営は存在しない。
しかし、理念なしでは生きられない。
この矛盾を生きること。
それこそが、経営の本質です。
理念を信じるだけでは足りません。
理念を運転する仕組みも必要です。
ただし、それでも矛盾は消えません。
最後に必要なのは、
矛盾を生きる覚悟です。
長い連載にお付き合いいただき、
本当にありがとうございました。
── 北條竜太郎
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