こんにちは。
北條です。
全3回でお届けしてきたシリーズも、今回が最終回です。
第1回では、入交昭一郎氏が倒産寸前のNVIDIAに500万ドルを出資した話をお伝えしました。
第2回では、そのNVIDIA株が現在なら10兆円規模の価値を持つにもかかわらず、セガの経営危機によって手放さざるを得なかった話を書きました。
今回は、その17年後に起きた出来事についてお話しします。
2017年。
入交昭一郎氏は77歳になっていました。
ある日、AIに関するセミナーの開催を依頼された入交氏は、講師としてジェンスン・フアン氏を招きたいと考えます。
当時のNVIDIAは、AIチップ市場で圧倒的な存在感を放ち、時価総額も数十兆円規模に達していました。
世界中から注目を集める経営者です。
入交氏は何とかフアン氏のメールアドレスを探し出し、連絡を送りました。
しかし、返信は期待していなかったそうです。
世界的なCEOとなった彼が、自分のことを覚えているだろうか。
そんな思いもあったのかもしれません。
ところが、返事はすぐに届きました。
「あなたからの連絡は、なんと素晴らしくうれしいものです」
「あなたのお役に立ててうれしいです」
フアン氏は講演依頼を即座に快諾しました。
そこには義務感もありません。
契約もありません。
お金の話でもありません。
ただ一つ、
「かつて自分を信じてくれた人のために動く」
という姿勢がありました。
ここで改めて考えてみたいと思います。
入交氏がNVIDIAに出資したとき、将来の成功を計算できたわけではありません。
契約不履行を起こした無名のスタートアップへの追加出資です。
リターンは見えません。
保証もありません。
その後、入交氏はNVIDIA株の価値が大きく花開く前に株を手放し、自らもセガを去ることになりました。
経済的な果実だけを見れば、入交氏自身は何も受け取れなかったようにも見えます。
しかし17年後、ジェンスン・フアン氏は即座に返事を返しました。
それはお金ではない形で返ってきた信頼だったのです。
以前の連載では、沖縄の建設会社・國場組の話を書きました。
700億円規模のテーマパーク「ジャングリア」の熱狂に乗らなかった会社です。
そのとき私は、
「やらない判断を、誰にも説明しない強さ」
について書きました。
今回の入交氏の話は、その反対側にあります。
やるべきだと信じた判断を実行し、その果実を自分では受け取れなかった人。
國場組も入交氏も、称賛を求めて動いているわけではありません。
損得勘定だけで判断しているわけでもありません。
そしてどちらも、10年、20年という時間の中で、静かに何かが返ってきています。
ここからは食品業界の話です。
セガが10兆円を手放したのは、判断を誤ったからではありません。
経営体力が足りなかったからです。
持ち続けたくても、持ち続けられなかった。
どれだけ正しい判断をしても、会社に体力がなければ果実を受け取る前に手放さざるを得ません。
これは食品メーカーでも同じです。
例えば、補助金を活用して設備を導入したとします。
その判断は正しかった。
しかし資金繰りが苦しくなり、設備を十分に活用できないまま数年が過ぎてしまう。
あるいは、優良な取引先との関係を築いた。
それも正しい判断だった。
しかし財務体質が弱く、求められる数量や品質、納期に対応できず、関係が縮小してしまう。
ここで問われるのは、
判断の正しさだけではなく、それを持ち続けられる体力があるかどうか
なのです。
入交氏の500万ドルは、計算から生まれたものではありませんでした。
ジェンスン・フアンという人物への信頼から生まれたものです。
しかし、その信頼を実際の投資という形にできたのは、セガという会社に一定の体力があったからです。
役員会を説得できたこと。
500万ドルという資金を動かせたこと。
それらはすべて会社の基盤があって初めて可能になります。
つまり、
判断力だけでは何も動かせない。
動かすためには体力が必要。
これが経営の現実です。
設備投資にも、補助金活用にも、取引先との関係づくりにもタイミングがあります。
「みんながやっているから」
それは本当のタイミングではありません。
「うちに必要だ」と腹の底から思えること。
そして、それを持ち続けられる体力があること。
この両方が揃ったときが、本当に動くべきタイミングです。
「うちはうちでやります」
この言葉が言える会社は、判断力と体力の両方を持っている会社です。
正しい判断をするだけでは足りない。
その判断を10年、20年と持ち続けられるだけの基盤をつくることもまた、経営者の仕事です。
そうした会社だけが、長い時間の中で果実を受け取れるのだと思います。
全3回にわたりお読みいただき、ありがとうございました。
── 北條竜太郎
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