2026.11.02

17年後に届いた返事【3】10兆円を手放した男が最後に得たもの【全3回】

こんにちは。
北條です。

全3回でお届けしてきたシリーズも、今回が最終回です。

第1回では、入交昭一郎氏が倒産寸前のNVIDIAに500万ドルを出資した話をお伝えしました。

第2回では、そのNVIDIA株が現在なら10兆円規模の価値を持つにもかかわらず、セガの経営危機によって手放さざるを得なかった話を書きました。

今回は、その17年後に起きた出来事についてお話しします。

17年後に届いたメールの返信

2017年。

入交昭一郎氏は77歳になっていました。

ある日、AIに関するセミナーの開催を依頼された入交氏は、講師としてジェンスン・フアン氏を招きたいと考えます。

当時のNVIDIAは、AIチップ市場で圧倒的な存在感を放ち、時価総額も数十兆円規模に達していました。

世界中から注目を集める経営者です。

入交氏は何とかフアン氏のメールアドレスを探し出し、連絡を送りました。

しかし、返信は期待していなかったそうです。

世界的なCEOとなった彼が、自分のことを覚えているだろうか。

そんな思いもあったのかもしれません。

「あなたからの連絡は、とても嬉しい」

ところが、返事はすぐに届きました。

「あなたからの連絡は、なんと素晴らしくうれしいものです」

「あなたのお役に立ててうれしいです」

フアン氏は講演依頼を即座に快諾しました。

そこには義務感もありません。

契約もありません。

お金の話でもありません。

ただ一つ、

「かつて自分を信じてくれた人のために動く」

という姿勢がありました。

入交氏が得たもの

ここで改めて考えてみたいと思います。

入交氏がNVIDIAに出資したとき、将来の成功を計算できたわけではありません。

契約不履行を起こした無名のスタートアップへの追加出資です。

リターンは見えません。

保証もありません。

その後、入交氏はNVIDIA株の価値が大きく花開く前に株を手放し、自らもセガを去ることになりました。

経済的な果実だけを見れば、入交氏自身は何も受け取れなかったようにも見えます。

しかし17年後、ジェンスン・フアン氏は即座に返事を返しました。

それはお金ではない形で返ってきた信頼だったのです。

損得の外側で動く人たち

以前の連載では、沖縄の建設会社・國場組の話を書きました。

700億円規模のテーマパーク「ジャングリア」の熱狂に乗らなかった会社です。

そのとき私は、

「やらない判断を、誰にも説明しない強さ」

について書きました。

今回の入交氏の話は、その反対側にあります。

やるべきだと信じた判断を実行し、その果実を自分では受け取れなかった人。

國場組も入交氏も、称賛を求めて動いているわけではありません。

損得勘定だけで判断しているわけでもありません。

そしてどちらも、10年、20年という時間の中で、静かに何かが返ってきています。

食品業界にも同じことが起きる

ここからは食品業界の話です。

セガが10兆円を手放したのは、判断を誤ったからではありません。

経営体力が足りなかったからです。

持ち続けたくても、持ち続けられなかった。

どれだけ正しい判断をしても、会社に体力がなければ果実を受け取る前に手放さざるを得ません。

これは食品メーカーでも同じです。

例えば、補助金を活用して設備を導入したとします。

その判断は正しかった。

しかし資金繰りが苦しくなり、設備を十分に活用できないまま数年が過ぎてしまう。

あるいは、優良な取引先との関係を築いた。

それも正しい判断だった。

しかし財務体質が弱く、求められる数量や品質、納期に対応できず、関係が縮小してしまう。

ここで問われるのは、

判断の正しさだけではなく、それを持ち続けられる体力があるかどうか

なのです。

判断力だけでは足りない

入交氏の500万ドルは、計算から生まれたものではありませんでした。

ジェンスン・フアンという人物への信頼から生まれたものです。

しかし、その信頼を実際の投資という形にできたのは、セガという会社に一定の体力があったからです。

役員会を説得できたこと。

500万ドルという資金を動かせたこと。

それらはすべて会社の基盤があって初めて可能になります。

つまり、

判断力だけでは何も動かせない。

動かすためには体力が必要。

これが経営の現実です。

本当のタイミングとは

設備投資にも、補助金活用にも、取引先との関係づくりにもタイミングがあります。

「みんながやっているから」

それは本当のタイミングではありません。

「うちに必要だ」と腹の底から思えること。

そして、それを持ち続けられる体力があること。

この両方が揃ったときが、本当に動くべきタイミングです。

おわりに

「うちはうちでやります」

この言葉が言える会社は、判断力と体力の両方を持っている会社です。

正しい判断をするだけでは足りない。

その判断を10年、20年と持ち続けられるだけの基盤をつくることもまた、経営者の仕事です。

そうした会社だけが、長い時間の中で果実を受け取れるのだと思います。

全3回にわたりお読みいただき、ありがとうございました。

── 北條竜太郎

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