2014年、大阪。
田村さんが私の部屋に来ました。
かつて私が経営に携わっていた食品工場のライン長です。
「北條さん、今週また1人辞めました」
3週連続でした。
私は「分かった」と言うしかありませんでした。
求人は出している。
条件も見直した。
それでも人は来ない。
そのとき私は、644万人という恐ろしい数字をまだ知らなかったのです。
食品業界の皆さん、こんにちは。
株式会社アカネサスの北條です。
第2回の今回は、「人手不足」についてお話しします。
少し重い内容ですが、食品製造業に関わる方であれば、一度は数字を正面から見ておくべきだと思っています。
当時の会社は、多額の債務を抱えながら再建の途中にありました。
人を増やす余裕はない。
でも、人は辞めていく。
ベテランが引退を申し出る。
そのたびに、残った人間でラインを回す。
その繰り返しでした。
工場の稼働率を落とすわけにはいきません。
納品を止めるわけにもいきません。
だから残った人たちに頼む。
頼まれた人は疲弊し、疲弊した人が辞める。
そしてまた、残った人に頼む。
このサイクルが止まりませんでした。
あの頃の私は、「うちの会社の問題だ」と思っていました。
しかし今になって分かります。
あれは、構造的な問題の予兆でした。
そしてその構造は今、日本中の食品工場で同時進行しています。
パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2030」によれば、2030年には644万人の人手不足が生じると推計されています。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、約700万人です。
推計機関によって数字は異なりますが、方向性は一致しています。
この不足率は、全労働需要の12%超に相当します。
つまり、50人の工場を43人で回さなければならない計算です。
田村さんが「また1人辞めました」と言いに来た、あの繰り返しが、2030年には業界全体で起きるのです。
厚生労働省「2024年版ものづくり白書」によれば、2002年に1,202万人いた製造業全体の就業者数は、2023年には1,055万人となりました。
20年で147万人も減少しています。
その間も工場は稼働し続け、残った人たちが穴を埋め続けてきました。
そして今後、この減少はさらに加速します。
団塊の世代の後期高齢化。
続く団塊ジュニア世代の定年。
生産年齢人口の急激な落ち込みが、2030年前後に重なってくるからです。
厚生労働省の職業安定業務統計によれば、2024年1〜3月の全産業平均の有効求人倍率は1.33倍でした。
一方、飲食料品製造業分野では3.05倍という水準に達しています。
求人を3件出しても、来るのはたった1人。
それが食品製造業の現実です。
さらに、最低賃金の引き上げも続いています。
2025年度の全国加重平均最低賃金は1,121円。
引き上げ幅66円は、昭和53年度の目安制度導入以来、過去最高です。
食品製造業は薄利多売の業態が多く、価格転嫁も容易ではありません。
賃金を上げても人が来ない。
上げれば利益が削られる。
この二重の圧力が、中小食品メーカーを静かに追い詰めています。
2024年6月、技能実習制度を廃止して「育成就労制度」を創設する関連法改正が国会で成立しました。
新制度では、一定期間後の転籍が認められます。
つまり、受け入れた外国人材が他業種・他企業へ移っていくリスクが生じるということです。
さらに円安の長期化により、日本で働く魅力自体も低下しています。
外国人材に頼る戦略そのものが、静かに綻び始めているのです。
富士電機が食品製造業を対象に実施した調査に、次のような声がありました。
「50代のベテランと30代の中堅・若手との間が、離職による人員のエアポケットになっている」
かつて経営に携わっていた工場でも、同じことがありました。
引退したベテランの感覚を受け継げる人がいなかったのです。
同調査では、人手不足が業務に与える影響として「技術・ノウハウの伝承が困難」を挙げた企業が32.9%に上ります。
これは、機械でも記録でも引き継げないものが、静かに失われていくことを意味します。
レシピの勘所。
設備の癖。
品質を守る職人の目。
そうしたものが、現場から消えていくのです。
帝国データバンクの調査によれば、2024年の人手不足倒産は年間342件に達し、2年連続で過去最多を更新しました。
同社の別調査では、洋菓子店の倒産が2024年度に51件発生し、こちらも過去最多となっています。
原材料高騰と人手不足が重なり、価格転嫁できずに倒れていく。
菓子製造に長く関わってきた私には、決して他人事とは思えない数字です。
田村さんが3週連続で私のところへ来た後、私がやったことは「求人を増やす」「条件を見直す」でした。
少しは改善しました。
しかし、根本は変わりませんでした。
今なら分かります。
問題の設定が間違っていたのです。
「人が減るから採用を頑張る」
ではなく、
「人が減ることを前提に、工場を設計し直す」
という発想が必要だったのです。
フードテックにおけるAI市場は、2025年から2029年にかけてCAGR、つまり年平均成長率34%で成長すると予測されています。
大阪王将の検品AI。
サントリー食品インターナショナルのAI需要予測。
相模屋食料の廃棄ゼロシステム。
こうしたAIを使った人手不足対応が、大企業から中小企業へと降りてきています。
これからの食品工場に必要なのは、
「何人採用できるか」
ではなく、
「何人いなくても工場が回るか」
という設計です。
そしてそこには、補助金という強力な入口があります。
補助金を使って設備を導入するには、申請から採択、発注、納品まで、早ければ1年、長ければ2年近くかかります。
2030年まで、実質4年を切っています。
「来年考えよう」では、手遅れになる可能性があります。
第3回は、
「FOOMAで見た技術は、御社のどの工程で使えるか」
をお届けします。
「うちはAIとか関係ない」
かつての私も、そう言っていた側の人間です。
次回は、FOOMAで見た技術が貴社の工場のどの工程で使えるのか、工程別に整理してお伝えします。
── 株式会社アカネサス 代表取締役 北條竜太郎
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