2026.10.19

誰にも称賛されない判断をする【第3回/全3回】

こんにちは。
北條です。

全3回でお届けしてきた本シリーズも、今回が最終回です。

第1回では、総事業費700億円のテーマパーク「ジャングリア」に沖縄中が熱狂したことをお伝えしました。

第2回では、その熱狂の中で、沖縄最大の建設会社・國場組があえて出資しなかったことについて書きました。

今回は、國場組が「乗らなかった」結果と、その判断が私たちの経営にどのような示唆を与えるのかについて考えてみたいと思います。

ジャングリア開業後に見えた現実

まずは結果から見てみましょう。

ジャングリアは2025年7月に開業しました。

開業前の2025年6月期決算では、すでに50億円の赤字を計上しています。

さらに開業直後は、悪天候や長時間の待機列などの影響もあり、来場者の多くが十分にアトラクションを楽しめない状況となりました。

入場料は6,930円。

仮に年間来場者数が150万人だったとしても、売上規模は約100億円です。

単純計算では、700億円の投資回収には非常に長い時間が必要になります。

一方で、國場組はどうだったのでしょうか。

國場組は出資していません。

つまり、直接的な投資リスクを負っていません。

それどころか、ジャングリアによって沖縄北部への観光客が増えれば、同社グループが展開するホテル事業などには恩恵が及びます。

結果として、

リスクを負わずに周辺需要の恩恵を受ける立場にいた

とも言えるのです。

國場組の判断が本当にすごい理由

しかし、私が評価しているのは結果ではありません。

本当にすごいのは、

「誰にも称賛されない判断をしたこと」

です。

新しい挑戦をした人は評価されます。

成功すれば英雄になります。

失敗したとしても「挑戦したこと自体は素晴らしい」と言われます。

では、やらなかった人はどうでしょうか。

もしジャングリアが大成功していたら、

「國場組は見る目がなかった」

と言われたかもしれません。

逆に苦戦していたとしても、

「たまたま助かっただけ」

と言われるでしょう。

つまり、

やらなかった人は、どちらに転んでも称賛されにくい。

それでも自分の判断を貫く。

私はそこに経営者としての強さを感じます。

「うちはうちでやることがありますから」

もし國場組の経営者に、

「ジャングリアに出資しなかったのは正解でしたね」

と尋ねたら、きっとこう答えるのではないでしょうか。

「うちはうちでやることがありますから」

他人を否定しない。

自分の判断を誇示しない。

ただ自社の仕事に集中する。

経営者にとって本当に難しいのは、こうした姿勢なのかもしれません。

食品メーカーにも同じことが起きている

この話は建設業界だけの話ではありません。

食品メーカーの経営者であれば、似たような場面を経験したことがあるはずです。

展示会で最新の自動化設備を見る。

営業担当者から、

「補助金で3分の2出ます」

「今回が最後のチャンスです」

と言われる。

さらに、

「あの会社も導入したらしい」

という話が耳に入る。

銀行担当者からも、

「今の金利環境なら有利です」

と背中を押される。

大義もある。

数字も合っているように見える。

周囲も賛成している。

しかし、そのとき本当に考えるべきことは、

「本当に今、自社に必要なのか」

という問いです。

「乗り遅れたくない」

という感情が、その問いを上書きしていないでしょうか。

私自身も「乗らない」を選んだことがある

ここで少し私自身の話をさせてください。

家業である茜丸で22億円の負債を抱えていた頃、何度も大きな提案を受けました。

新工場建設。

新規事業参入。

そして、

「会社を売ってほしい」

という話もありました。

条件は非常に良かった。

借金は消える。

手元にも資金が残る。

15年間の苦しみが終わる。

普通なら飛びつくような話です。

しかし私は断りました。

そのたびに、

「北條さんは保守的だ」

「もったいない」

と言われました。

それでも断ったのは、22億円の負債を背負った経験が、大きな話の裏にあるリスクを敏感に感じ取るようになっていたからです。

結果として私は、一発逆転を狙わず、15年かけて借金を完済しました。

派手さはありません。

ただ毎月、愚直に返済を続けただけです。

「やらない」は何もしないことではない

國場組も同じだったのではないかと思います。

1993年の返済停止。

1999年の創業家退任。

2007年の再建完了。

15年にわたる苦しい経験が、

「乗るべきか、乗らないべきか」

を判断する感覚を磨いたのではないでしょうか。

そして忘れてはいけないのは、

「やらない」は何もしないことではない

ということです。

國場組はジャングリアに出資しなかった代わりに、自社のホテル事業や本業に注力しています。

やらないことを決める一方で、やるべきことに集中しているのです。

経営に必要なのは「やらない勇気」

設備投資にも補助金活用にも、適切なタイミングがあります。

そのタイミングは、

「みんながやっているから」

ではありません。

「自社に本当に必要だから」

です。

経営者に求められるのは、

「やる勇気」

だけではありません。

むしろ、

「やらない勇気」

の方が難しいこともあります。

そして、

やらなかった理由を必死に説明しない強さ。

他社と比較しない姿勢。

「うちはうちでやります」

と言える覚悟。

そうした会社こそが、10年後も生き残っているのではないでしょうか。

全3回にわたりお読みいただき、ありがとうございました。

── 北條竜太郎

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