2026.11.06

【2】50人の工場が、43人で回さなければならない日【全9回】

2014年、大阪。

田村さんが私の部屋に来ました。

かつて私が経営に携わっていた食品工場のライン長です。

「北條さん、今週また1人辞めました」

3週連続でした。

私は「分かった」と言うしかありませんでした。

求人は出している。

条件も見直した。

それでも人は来ない。

そのとき私は、644万人という恐ろしい数字をまだ知らなかったのです。

食品業界の皆さん、こんにちは。

株式会社アカネサスの北條です。

第2回の今回は、「人手不足」についてお話しします。

少し重い内容ですが、食品製造業に関わる方であれば、一度は数字を正面から見ておくべきだと思っています。

かつて経営に携わった工場で起きたこと

当時の会社は、多額の債務を抱えながら再建の途中にありました。

人を増やす余裕はない。

でも、人は辞めていく。

ベテランが引退を申し出る。

そのたびに、残った人間でラインを回す。

その繰り返しでした。

工場の稼働率を落とすわけにはいきません。

納品を止めるわけにもいきません。

だから残った人たちに頼む。

頼まれた人は疲弊し、疲弊した人が辞める。

そしてまた、残った人に頼む。

このサイクルが止まりませんでした。

あの頃の私は、「うちの会社の問題だ」と思っていました。

しかし今になって分かります。

あれは、構造的な問題の予兆でした。

そしてその構造は今、日本中の食品工場で同時進行しています。

644万人という数字の意味

パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2030」によれば、2030年には644万人の人手不足が生じると推計されています。

みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、約700万人です。

推計機関によって数字は異なりますが、方向性は一致しています。

この不足率は、全労働需要の12%超に相当します。

つまり、50人の工場を43人で回さなければならない計算です。

田村さんが「また1人辞めました」と言いに来た、あの繰り返しが、2030年には業界全体で起きるのです。

すでに20年で147万人が消えている

厚生労働省「2024年版ものづくり白書」によれば、2002年に1,202万人いた製造業全体の就業者数は、2023年には1,055万人となりました。

20年で147万人も減少しています。

その間も工場は稼働し続け、残った人たちが穴を埋め続けてきました。

そして今後、この減少はさらに加速します。

団塊の世代の後期高齢化。

続く団塊ジュニア世代の定年。

生産年齢人口の急激な落ち込みが、2030年前後に重なってくるからです。

求人を出しても3席に1人しか来ない

厚生労働省の職業安定業務統計によれば、2024年1〜3月の全産業平均の有効求人倍率は1.33倍でした。

一方、飲食料品製造業分野では3.05倍という水準に達しています。

求人を3件出しても、来るのはたった1人。

それが食品製造業の現実です。

さらに、最低賃金の引き上げも続いています。

2025年度の全国加重平均最低賃金は1,121円。

引き上げ幅66円は、昭和53年度の目安制度導入以来、過去最高です。

食品製造業は薄利多売の業態が多く、価格転嫁も容易ではありません。

賃金を上げても人が来ない。

上げれば利益が削られる。

この二重の圧力が、中小食品メーカーを静かに追い詰めています。

外国人という頼みの綱も変わりつつある

2024年6月、技能実習制度を廃止して「育成就労制度」を創設する関連法改正が国会で成立しました。

新制度では、一定期間後の転籍が認められます。

つまり、受け入れた外国人材が他業種・他企業へ移っていくリスクが生じるということです。

さらに円安の長期化により、日本で働く魅力自体も低下しています。

外国人材に頼る戦略そのものが、静かに綻び始めているのです。

工場の「人員エアポケット」

富士電機が食品製造業を対象に実施した調査に、次のような声がありました。

「50代のベテランと30代の中堅・若手との間が、離職による人員のエアポケットになっている」

かつて経営に携わっていた工場でも、同じことがありました。

引退したベテランの感覚を受け継げる人がいなかったのです。

同調査では、人手不足が業務に与える影響として「技術・ノウハウの伝承が困難」を挙げた企業が32.9%に上ります。

これは、機械でも記録でも引き継げないものが、静かに失われていくことを意味します。

レシピの勘所。

設備の癖。

品質を守る職人の目。

そうしたものが、現場から消えていくのです。

人手不足は倒産原因になっている

帝国データバンクの調査によれば、2024年の人手不足倒産は年間342件に達し、2年連続で過去最多を更新しました。

同社の別調査では、洋菓子店の倒産が2024年度に51件発生し、こちらも過去最多となっています。

原材料高騰と人手不足が重なり、価格転嫁できずに倒れていく。

菓子製造に長く関わってきた私には、決して他人事とは思えない数字です。

「採用を頑張る」では、もう追いつかない

田村さんが3週連続で私のところへ来た後、私がやったことは「求人を増やす」「条件を見直す」でした。

少しは改善しました。

しかし、根本は変わりませんでした。

今なら分かります。

問題の設定が間違っていたのです。

「人が減るから採用を頑張る」

ではなく、

「人が減ることを前提に、工場を設計し直す」

という発想が必要だったのです。

フードテックにおけるAI市場は、2025年から2029年にかけてCAGR、つまり年平均成長率34%で成長すると予測されています。

大阪王将の検品AI。

サントリー食品インターナショナルのAI需要予測。

相模屋食料の廃棄ゼロシステム。

こうしたAIを使った人手不足対応が、大企業から中小企業へと降りてきています。

これからの食品工場に必要なのは、

「何人採用できるか」

ではなく、

「何人いなくても工場が回るか」

という設計です。

そしてそこには、補助金という強力な入口があります。

補助金を使って設備を導入するには、申請から採択、発注、納品まで、早ければ1年、長ければ2年近くかかります。

2030年まで、実質4年を切っています。

「来年考えよう」では、手遅れになる可能性があります。

次回予告

第3回は、

「FOOMAで見た技術は、御社のどの工程で使えるか」

をお届けします。

「うちはAIとか関係ない」

かつての私も、そう言っていた側の人間です。

次回は、FOOMAで見た技術が貴社の工場のどの工程で使えるのか、工程別に整理してお伝えします。

── 株式会社アカネサス 代表取締役 北條竜太郎

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