こんにちは。
アカネサス代表の北條です。
前回、私は
「ヤオハンを尊敬している」と書きました。
先駆者として、
どうしても成功してほしかったからです。
しかし、尊敬しているからこそ、あえて問いたいのです。
もしヤオハンが、理念を「信じるだけ」で終わらせず、
「運転する」仕組みを持っていたらどうなっていたのか。
今回は、私たちアカネサスで実際に取り組んでいる
**「理念の運転方法」**についてお話しします。
これは理論ではなく、実践です。
第3回で私は、
「もし自分がヤオハンだったら③を選ぶ」と書きました。
静岡を捨て、
すべてを賭けて、
華南に跳ねる道です。
これは、理念の**「熱」**です。
一方で、私は同時に
「稼働率70%未満の設備投資案件は断る」
という基準も持っています。
これは、理念の**「冷却」**です。
理念は熱く語るべきです。
しかし、判断の瞬間まで熱いままでいてはいけない。
ヤオハンに足りなかったのは、この冷却装置でした。
熱はあった。
むしろ熱すぎた。
しかし、その熱を制御する仕組みがなかったのです。
私たちの理念は、
「補助金で食品業界の未来をつくる」
です。
この理念を、私たちは数値に翻訳しています。
これらを半期ごとにモニタリングしています。
特に重要なのは、後半の2つです。
これは言い換えれば、
「理念に基づいて断る基準」
です。
たとえ顧客が望んでいたとしても、
稼働率の見込みが甘ければ断る。
たとえ補助金が通るとしても、
財務が危うければ慎重になる。
なぜなら、3年後にその工場が会社の重荷になるなら、
それは「食品業界の未来をつくる」ことにはならないからです。
理念を数字に翻訳することで、
長期的な未来のために断る勇気が生まれます。
もしヤオハンが理念を数値化していたら、どうだったでしょうか。
最後の2つは、
まさに**「理念に基づいた撤退基準」**です。
「共生」という理念があるから、赤字店舗を残す。
これは理念の誤用です。
本当の「共生」とは、
会社を残すこと
です。
会社が潰れたら、誰とも共生できません。
もし和田一夫が
「3年連続赤字の店舗は閉鎖する。これが共生の定義だ」
と言い切っていたら、
理念は撤退を支える力になっていたはずです。
理念は、進む方向だけでなく、退く基準にもなる。
理念KPIや撤退基準。
私たちは理念を「運転する」仕組みを作っています。
しかし、仕組みがあっても
矛盾そのものは消えません。
今年、ある案件がありました。
創業50年、地域で100人の雇用を守っている食品メーカーです。
社長は70歳。
「HACCPに対応した新工場を建てたい」と言う。
補助金2億円、総投資額5億円。
しかし需要予測を見ると、
稼働率見込みは65%でした。
私たちの基準では、
「70%未満は提案しない」
です。
本来なら、断るべき案件です。
しかし、この会社が潰れれば、
地域の雇用が失われます。
「食品業界の未来をつくる」という理念は、
「この地域の未来を守ること」でもあるはずです。
理念KPIは「断れ」と言う。
しかし理念の本質は、どこにあるのか。
私は3日間悩みました。
そして結局、手伝うことにしました。
基準を破りました。
今、申請書を書いています。
これが正しかったのか、まだ分かりません。
3年後、この工場が稼働率50%で苦しんでいたら、
私は間違っていたことになります。
理念を運転する仕組みがあっても、
経営者は矛盾の中で生きています。
和田一夫も、同じ矛盾の中にいたはずです。
どちらを選んでも、
理念を裏切ることになります。
もし私が和田一夫の立場だったら、
上海Nextageを止められたでしょうか。
初日107万人という驚異的な来客数。
マスコミは絶賛し、社員も誇らしげです。
その熱狂の中で、
「これは失敗だ。今すぐ縮小する」
と言えたでしょうか。
正直、言えなかったと思います。
なぜなら、撤退するという決断もまた
理念に反して見えるからです。
理念を守るために進む。
理念を守るために退く。
どちらを選んでも、矛盾は消えません。
理念を信じるだけでは、何も変わりません。
理念を運転する仕組みも必要です。
しかし、それでもなお、矛盾は消えません。
理念を守るために、理念を裏切る。
この矛盾を生きる覚悟が、経営者には必要です。
ヤオハンは、理念を信じすぎて倒れました。
しかし、もしヤオハンが理念を完全に捨てていたら、
単なる利益追求の小売業になっていただけでしょう。
それもまた意味がない。
苦労する価値がない。
理念と現実の矛盾。
それを生きること自体が、経営なのです。
私は今年、基準を破りました。
それが正しかったのか、まだ分かりません。
ただ一つ言えるのは、
基準を守るだけでは、理念を守ったことにはならない
ということです。
次回はいよいよ最終回です。
「静かな生存──理念経営は、存在しない」
理念と現実の矛盾を、どう生きるのか。
シリーズの締めくくりとして、私なりの結論を述べます。
── 北條竜太郎
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